発つ者記憶に残らず【完】
ノイシュの話によれば。
つまり、影武者はみんな自分が影武者だと知らないと思っていて、みんなは王様を影武者だと知っていたけど影武者本人には悟られないようにしていた、そうだ。
…何の意味があるのそれ?
"影武者は遅かれ早かれ解雇するつもりではいた。そのときが来たとき、王を失ったという事実を重く受け止めないようにするため、悟られないようにする、という任務を与えた。そうすれば悲しみよりもバレないようにしなければならない、という気持ちの方が勝るだろう"
あえて王がすでに死んでいたという事実は伏せていた。
あれは影武者で、影武者は自分が影武者だとわからないように演技しているが、使用人たちは影武者だとすでに知っている。しかし王は存在していなければならず、偽物でも王がいることには変わりない。
影武者=王、本人=王は成り立つが、影武者=本人にはならない。しかし、これを限りなく近づけさせるためには、影武者でも本人でも王は王だと思わせる必要があった。無理矢理にでも影武者=王のイメージを強くさせることで、実は王は死んでいた、と聞いたところであんまり実感湧かないなあ…と思わせ大混乱を避ける。これがノイシュの狙いだった。
影武者に代わったのは5年前で、王は死んだと告げたのは2年前。実は影武者だったと伝えたのはつい最近。
なーんだ影武者だって知ってたんだ、と影武者は努力が実は意味がなかったことを知ったけど騙していた罪悪感が軽くなる。みんなはみんなで影武者がいなくなってもノイシュがいるし、実質あまり問題はないんじゃないか、となる。
ノイシュが仕事に慣れるまでの時間稼ぎになっていたような気がしてきたけど、結果オーライ、なのかな?でも結局、王様がいないことには変わりないけどどうするの?
「今は王座は空けてあるが、王宮で起こっていることなど知る由もない国民には関係のないことだ。次の王が決まり次第、前王の訃報と共に公開する」
「…なんか、騙してばっかりだね」
「人のことを言える立場だとは思えないが」
「それはまあ、そうなんだけど…」
スケールが違うっていうか、用意周到というか、もう口出しできないところまで来てるというか…後戻り不可能で流石というか、強引過ぎる…
「無理もないだろうが…あの男が自分の父親だったという事実には驚かないのか?」
…え、あ、そっか。そうだったっけ。実感が全然湧かなかったから聞き流してたけど、そう言えばそうだったな、と首をかしげる。