発つ者記憶に残らず【完】
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その後、昼食も夕食も4人で食べてすっかり夜も更けた8時頃になってようやく解散した。お喋りをしていく中でだんだんと誤解も解けていき、私も素直に笑えるようになっていた。
この黒猫はフォルテのキティだけど、本当は死んでなくてただ城の中を放浪していただけなのに帰って来ないことに神経質になったフォルテがヨハンに食ってかかったらしい。フォルテが以前も猫がいなくなった、と言っていたのはその猫も放浪したからで、自由気ままな猫の習性をよく理解していなかったフォルテが勘違いしただけだったそうだ。
また、ゼウの笛をなぜノイシュに預けるかというと、ベルダム地区でしか笛を作ってはいけない決まりとなっており、例えもう魔力が無くなっていて使い物にならなくなっていたとしても笛の形でゼウの形見を持っていたい、というヨハンの意向からだった。
まあ確かに、あんなバラバラに砕け散った状態で持ち歩きたくないだろうし、一縷の望みにかけたい気持ちもわかる。ついでにノイシュの笛も見せてもらうと、透き通った透明な笛で本当にヒアの鱗からできたものなんだなあ、と関心した。
本当はまだ他にも話をしたんだけど、他愛もない話ばかりで正直あまり細かく覚えていない。改めてみるとトーレンとヨハン、ノイシュは幼馴染だな、とか、なんでヨハンだけ金髪なのに目が黒いんだろう、とか、ノイシュはドラゴンのことになると本当に周りが見えなくなる、とか、確かそんな感じのことばかりだった。
最後にノイシュが"髪を引っ張ったりっていうのは、いつの話だ?"と掘り下げてきて、今さら?と思い私は肩をすくめたのにヨハンが見るからに狼狽えたからノイシュがずっと追求してて、そんな彼からヨハンが逃げる形でお開きになった。
「君の話を信じるよ。水のことは気になるところだけど聞けないんじゃどうしようもないからね」
話の途中でノイシュによって私がディアンヌではないことがバレてしまいヨハンは見るからに驚いていたけど、最近のディアンヌの変化には気がついていたようで"そっか"、と頷いただけだった。
そして別れ際に信じると言われ、私は曖昧な笑みを浮かべた。ノイシュがいる手前は……なんてことにまたなったらどうしようと思った。でもすぐにそんな考えは捨てることにした。だって、自分自身だって二重人格みたいになっていたわけでしょ?中にいた人格が全くの別人に変わっていてもあり得ない話じゃない、と豪語できそうな人だ。
今となっては何か彼には近しいものを感じているのは、多分そのせい。