発つ者記憶に残らず【完】


「ねーねーレイドー。これどーしよー?」

「…それは生きているのか」

「わかんなーい。さっきは動いてたよ?いらないなら僕のおやつにしていーい?」


このやり取りは……

だんだんと上昇し小さくなるメリアの胴体を掴んで宙に浮かせたのはあの黒いドラゴンだった。その背中からメリアを冷たい目で見つめるレイドの姿。

メリアは驚きで目を丸くし、手の力が抜けたのか本を手放してしまった。ドサッと目の前に落ちた本を私がサッと拾い抱えると、彼がついに口を開く。


「…腹、壊すなよ」

「やったあ!」

「え、ま、い、いやああああ!!!」


"いただきまーす"とドラゴンの口の中に放り込まれていったメリアの叫びはそこで途絶え、ゴクリと丸呑みされてしまった。あまりにも一瞬の出来事でしばらく呆然とした。

そしてそれを見届けて憔悴しきった私は地面に手をついて額の汗を拭う。ポタポタと流れてきたのは死を覚悟した涙か、それとも安堵の涙か。


「おまえ、マリアだろ」


聞いたセリフだ、と思い涙に濡れた顔を上げると、やはり無表情のレイドが真上から私を見下ろしていた。フラフラとしながら立ち上がったけど、ガクッと膝が折れてしまい咄嗟にレイドの袖を掴んでしまった。

仕方なくといった様子の彼に支えられるようにして立ち上がると、私はゆっくりと彼の言葉に頷いた。


「なんで……?」


取り敢えず出た言葉はそれだった。


「なんで、ここに……?」

「俺はおまえ同様、造られた魂だ。いや、俺"たち"か」


レイドは後ろで"不味い…"とお腹を擦っている黒いドラゴンを親指を後ろに向けることでそう付け加えた。


「俺たちも"ワクチン"ということになる。マリアを元にして造られ改良されたため、メリアに打ち勝つことができた。メリアかマリアかを俺が見分け、こいつがそれを喰らい消滅させる。そういう風にする方がアフターケアはできないものの強力になることがわかったからな。それに、ワクチンにも有効期限があるし、おまえはもうほとんど機能を失っていたため俺が新しく造られた」


あ、やっぱ、文系寄りの私には難しい話だな、と思いつつ一応わかるから納得しておいた。


「でも、なんか、なんだろう……突然過ぎてあまり状況を飲み込めてないというか」


目標だったレイドに会えたけど聞きたかったことはもう解決してるようなものだし、いきなり助けられても何をすればいいのかわからなくなってしまった。

私はこれからどうすればいいの?


「あのメモも知ってたんでしょ?見たとき深刻な顔をしてたし…ベッドにいきなりダイブしたのは意味わからなかったけど」

「ああ、理解した。だがまだメリアとマリアの見分けがはっきりできていたわけではない。メリアだった場合は無防備な姿を見せればすぐに殺してくると思った」


いやー、それでもまだ他にやり方あったでしょうよ、とこの意味不明な感じが人間の真似をしているAIのようなおかしさを生み出しているんだな、と思った。この短期間でアップデートされたのか、表情は硬いけど言葉遣いはまともになっていて人間らしくなった気がする。

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