発つ者記憶に残らず【完】
でも結局は私も消えたくなかったからメリアに抵抗したけど、レイドがいなかったら今頃は消えていた。メリアだけが悪者みたいになっているけど、私だって生き残りたいがために自分のオリジナルである彼女を消すというクーデターを起こした。
ゴードンだってメリアを悪者とは言い切ってなかったし、彼女の企みを知っていてもなお甘んじて罰を受けたんだったら私はメリア以上にワガママなのかもしれない。
だって…だって。
"この世界が、私にとっても最後の世界かもしれなかったから"。
「………っ」
こんな私じゃなくて、メリアがディアンヌの方が本当は良かったのかなという後悔は尽きない。本気のディアンヌは彼女だったのに。
ノイシュは。
彼は、どっちのディアナが好きだったのかな。
メリアのディアナ?それとも私の?
メリアは空腹と疲労と寒さでわざと死んだ。それはノイシュと一緒に生きたかったからで、私だって一緒にいたいと思ってしまった。ドラゴンのことを熱心に語る彼は生き生きとしていて私までもが惹き込まれたし、面倒見がいいし、一緒にいると安心するし、本気で心配してくれるから彼に寄りかかりたいと思ってしまう。
わざと死ぬなんて、生半可な覚悟じゃできない。その覚悟を私は踏みにじってしまった。どちらか一方が消えることがディアンヌがこの先も存在するためにも必要だったんだ、と思いたい。
今ここにいる彼はここにしかいないんだから、彼の世界にいるたった1人のディアンヌは、私。パラレルワールドにいる彼は私の知るノイシュじゃないし、ここにいる彼はメリアの知るノイシュとはもう別の人になっているはず。
「うっ、っ……!」
これでよかったんだよね、と私はその場にへたり込んで声を抑えて泣きじゃくった。メリアの恋は結局、私のせいで成就しなかった。さらにその存在も完全に消えてしまった。
私が生き残る必要はなかったのに。
全部、私のせいで……!
「……なぜ、泣いている」
無我夢中に泣いていて気づかなかったけど、いつの間にかノイシュが外に出て来ていて私の後ろに立っていた。
彼はしゃがみ込み、私の頭を後ろから撫でた。
私は嗚咽を抑えつつなんとか声を振り絞った。
「メリアが……ディアンヌが、完全に消えちゃった」
「………そうか」
ぽつりぽつりと私がこれまで語れなかった転生のことやこれまでのことについて話している間、彼は後ろから抱きかかえて私を膝の上に乗せるとまるで子供をあやすようにぎゅっと優しく抱き締めながら髪を撫でてくれていた。