桜の舞い散る頃

【貴方と私】

会社に帰社したのは、残務処理を片付けようとしての事だろう。
「室長、熱が高いようなので、このままお帰りになられるのが良いかと思います。今、タクシーを呼びますから。」
「んー、仕事が立て込んでるんだよね。」
「それは解っておりますが、週末に治して月曜からスッキリとしてされた方が集中出来ると思います。」
彼女が呼んだタクシーに、支えられなんとか乗り込む。
「室長、お住まいはどちらですか?」
「あー、○○町、△△マンション~」
ヤバいな。熱のせいか頭が回らない。最近忙しかったから、さすがに身体がついていかなかったか。キツイなぁ。
「室長、着きましたよ。起きてますか?私には抱き上げて運ぶのは無理ですから、頑張ってしっかりと自力で歩いて下さい!」
「クックック、はーっ、大丈夫だよ。高梨君。」
さすがに抱き上げては無理だろ。彼女が真面目に言うから可笑しすぎる。いや、彼女は本気で言ったんだろうけど‥‥‥。
彼女に支えてもらいながらマンションへ入る。ホールの向こうのエレベーターに乗り、25階を押し部屋へと向かう。
「室長のお宅には、体温計はありますか?後は熱を下げたいので冷却剤があるといいんですが。」
エレベーターの中で彼女が静かに言った。
「大丈夫。どっちもあるよ。すまなかったね。せっかくの週末なのに迷惑を掛けてしまって。」
「いえいえ、特に予定もありませんし心配なさらないで下さい。」
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