短編集 【善人のフリした悪人】
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翌日、
昼夜問わず鬼族が人間達から奪った酒や食料で催される宴に紫鬼が向かいました。
「お~お~弱鬼様がこんな所にどうした?」
「お前に食わす飯はねぇぞ弱虫!」
赤鬼、青鬼は紫鬼の姿を見つけた途端、
またいつもの罵声を浴びせます。
「赤鬼様、青鬼様。
お願いがございます。
牛の乳だけでも頂けねぇでしょうか。
ワシが飼育している牛が病気にかかりやして・・・。何卒お願い致します。」
「なに?
紫鬼よお前牛なんか飼ってるのか?」
「こりゃ傑作だ。あれは食べる物であって牛の乳なんざ搾り取るとは、お前はやっぱり変鬼だ。」
紫鬼はもちろん牛など飼っていません。
しかし昨日拾い上げた人間の赤子に飲ませようと、こうしてやって来たのです。
「まぁいい。腹が膨れてもう食べきれなかった牛がいる。丸々持っていけ。」
赤鬼はペッとかじっていた牛の骨を吐き出すと、まだ生きたまま放置されていた牛を指差しました。
「赤鬼様ありがとうございます。」
紫鬼は深々と頭を下げて牛を貰い受けました。