短編集 【善人のフリした悪人】
ムサシの手綱で感じ取ったトナカイが、阿吽の呼吸で方向転換する。
やがて、彼がこの街で一番好きなスポット。
冬のシンボルとも言える、
大きなクリスマスツリーが見下ろせる場所までやって来た。
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・。」
冬の寒さが身に染みたからなのか、
眼下に見えるツリーを、親に叱られるまでいつまでも見上げていた幼少の頃の記憶が蘇ったからなのか、
背中から感じる、無言ながらも確かな温かさを感じたからなのか、
ドライブを終え、
再び地面に降り立った頃には女の酔いはすっかり醒めていた。