ハイド・アンド・シーク
しかしながら、実際に企画部に異動して、森村さんがどうだとか気にしていられるような余裕はゼロになった。
とにかく仕事量が多い。
営業に使えそうな様々なデータの比較・分析はもちろん、つねに会社の現状は知っていなければならないし、営業課会議の運営を任されているから当日の運営にも気を遣うし、資料の作成のほかその会議内容を会社全体に発信しなければならない。
それに加えて、企画部の事務員が持ってくる書類の確認作業や承認、営業部との連携。
一から始めるような仕事内容に、毎日があっという間に流れていき、慣れるまでに半年以上を要した。
なんで開発室にいた俺がこんなことを、と思うけど、営業課の仕事をやっているうちに、これはこれで面白いなと感じるようになったのだから不思議だ。
やっと企画部の仕事に慣れた頃、営業部の飲み会に誘われた。
「有沢くんは人当たりがいいね。企画部にいるのもったいなくない?営業部に来た方がよかったよね」
酒の席とはいえギクッとなるようなことを営業部長に言われて、ビールを飲む手が止まった。
さすがにもう異動は嫌だ。
「企画部の仕事にもまだ慣れてませんから…」とやんわり断りを入れる。
だけど、まぁ自分の性格だから、きっと営業部に異動したらしたでそこそこ楽しくやれるんだろうなとも思うが。
「そういえば君は独身なのか?」
「はい、まだ結婚は」
「恋人は?」
「いません」
部長はどことなくホッとしたような顔つきになり、こそっと耳打ちしてきた。
「じゃあ、どうかな?今度俺の娘と会ってみるってのは」
「─────それは……」
いわゆる、お見合い的な?