ハイド・アンド・シーク
この手の誘いにはうんざりしていた。
以前にも事業開発室にいた時に、よく出入りするリフォーム商品開発室の人に誰々を紹介したいと言われ、断りきれなくて一度会ったけれど。
初対面の人と二人で会って、話なんか盛り上がるわけがない。
失敗したな、彼女がいると言っておけばよかった。
なんと言って断ろうかと考えていたら、酔っ払った営業部の若手の越智くんが真っ赤な顔でこちらへ突進してきた。
「部長ーー!俺にも誰か紹介してくださいよー!!」
「越智!お前、また酔っ払ってるな!?」
どうやら、彼が酔っ払って絡むのはいつものことのようだ。上司に対しても絡めるのはある意味強者かも。
ここぞとばかりに越智くんに席を譲り、お見合い話をさりげなく断ち切る。
すると、部長が聞き捨てならない話を始めた。
「越智、お前たしか社内に誰か気になる子がいるって言ってたじゃないか。誰だっけ?」
「企画部の森村さんです!」
敬礼ポーズをしてキメ顔を部長に向ける越智くんを、俺は思わず見つめてしまった。
……森村さんって、あの森村さん?
「目立たないけど、すっごく可愛いんですよ!営業課に咲く一輪の花ですよ!……部長!!俺が新規契約とったら森村さんに仕事振ってくださいよ!話すチャンスが欲しいんで!」
「あいあーい、分かったよ」
生返事の部長に越智くんは文句を言っていたけど、こっちはなんとも言えないモヤモヤした気持ちになったことだけは確かだ。