ハイド・アンド・シーク


森村さんと俺は、普段あまり話す機会はない。
彼女が分からない仕事は、だいたい他のベテランの先輩たちに聞けば分かることだし、俺が関わるのは彼女が作成した書類のチェックくらい。

彼女の仕事ぶりは、最初の印象と変わらなかった。

とても真面目で、几帳面。
時々ミスもするけれど大きなものはないし、期日を守れそうにない時は必ず先に申し出てくる。仕上がりは丁寧だから、あまり訂正することもない。


─────それにしても、彼女は絶対に俺の目を見ない。

「主任、監査用の流通事例まとめました。よろしくお願いします」

と、書類を持ってくるけれど、一切こちらを見ない。手元だけを見ている。
なんだか恥ずかしそうに、微妙な笑顔を浮かべて去っていく。

……もしかして嫌われてるのかな。

目が合わないと気づいてから、暇がある時は彼女を見てしまうようになった。


真剣な顔でパソコンと向き合っていることがほとんどだが、時々隣の席の斉木さんと談笑していることがある。
そして毎日決まった時間に彼女が引き出しを開けて取り出すアレ。

「もぐもぐタイムか」と、時計を見る。
俺の中で、通称もぐもぐタイム。

ダラッとイスに背中をつけて、心底幸せそうな顔でお菓子を口に運ぶ。ちょっとした休憩なのだろうが、めちゃくちゃ気が抜けた顔をしていて、

─────可愛いな、と見とれる。

そしてはっと我に返る。
相当ヤバい奴だ、見るのやめよう。


そういうのを、数ヶ月繰り返した。


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