ハイド・アンド・シーク
「そうだ、今夜の親睦会に森村さんは来るの?」
ふと思い出したように言い出した有沢主任に、私はすぐに首を振る。
気を抜いて視線を上げたら、彼の目と出会った。
近くで見ると、より一層かっこよく見えて心臓が壊れそうだった。
「私は不参加って伝えてます」
親睦会というのは、今度のコンペに携わる人たちで集まって、少しでも親しくなって当日は一丸となって取り組もうというものだ。
毎回開催されているらしいが、コンペ自体初めて参加する私にとっては、親睦会もそれに当たる。
不参加と伝えても主任は特に残念がる様子はなかった。
「そうなんだ。せっかくだから参加すればいいのに。コンペ前はいつもそうやって結束を固めてるよ」
「……でも、私は元々プロジェクトには関わってませんし。ただ案内やお茶出ししか出来ないような人間が行っても、みなさんの輪には入れないですから」
「あはは、親睦会って言ってもただの飲み会だよ?斉木さんは参加になってたような気がするけど」
「あー、茜はお酒が好きなので……」
飲み会と聞けばすぐに参加して社交的な性格でみんなと溶け込んで楽しむ茜と、若干の人見知りでなかなかうまく話せない私とでは、楽しめる度合いが全然違う。
お酒もそこまで飲めないし。
そこで無理強いしないのが彼のいいところというか、もう一度推してくることもなく「そっか」と笑っていた。
「じゃあ、気が向いたら。せめてコンペの打ち上げは参加したら?……ってまだうちに決まったわけじゃないからおめでたいことは言えないけど」
「そうですね、もしも今回のコンペでうちに決まったら、打ち上げは行きますね」
お酒の力を借りて彼に近づこうなんて、そんなことは一切思わない。
自分の性格は十二分に分かっているから、酔うに酔えなくて結局隅っこで茜や後輩たちと飲むことになるに決まっている。
打ち上げの時も、そうなることは目に見えていた。
でも、こうして誘ってくれることが嬉しかった。
気にかけてもらえてるみたいで、気分が上がることは確かだ。
とことん優しい人だな、と思った。