ハイド・アンド・シーク
始業の音楽が鳴り、朝礼が始まる。
私の心はいつもよりも少し浮き足立って、そして口元が緩んでしまう。
朝一番に彼に会えて、しかも一緒にお茶できたなんて。
なんだかまだ夢みたいで、奇跡のようだった。
たったこれだけの出来事で、私はしばらくはお腹いっぱいの状態で過ごせそうだ。
「ね、菜緒。あんた今日、駅前のカフェに有沢主任といた?」
おめでたい頭に、隣からコソッと小声の茜の声がして別な意味でドキッとした。
なんで知ってるの?あんな朝早い時間のことなのに!
始業ギリギリに出社してくる茜がそのことを知っているのが不思議でたまらなかった。
「偶然会ったの。ちょっとお茶したけど、それだけ」
「マジかー!なんだぁ。なんかあったのかと思った。峯田さんが見かけたらしくて、みんなに言いふらしてたよ」
「え!?」
思わず声を上げたので、朝礼恒例の売上結果と目標を読み上げていた豊谷部長が私をジロリと睨む。
すみません、と縮こまるしかなかった。
いいことが起きると、今度は逆のことが起こる。
気分は落ちて、横目で有沢主任を見やる。彼は部長の話に真剣な表情で耳を傾けていた。
朝礼中に色恋沙汰に頭を悩ませる私と、仕事に真面目な彼。釣り合わなすぎて笑えた。
朝礼が終わり、茜がさっきの続きとばかりにキャスター付きのイスを私のそばまで転がしてきた。顔は見事にニヤついている。
「峯田さんの誤解解いておこうか?」
「……うん。ついでに言いふらした人達にもちゃんと訂正してほしいな」
「オッケー。あーあ、残念。親友の一大事かと思ったのに」
「もー!バカにしてるでしょー!」
しばらく恋人のいない私をからかいたかっただけのようで、内心ホッとしたりして。