ハイド・アンド・シーク
私はというと茜と、営業部の後輩の女性社員である影山さん(通称カゲちゃん)と三人で飲んでいた。
私たち先輩二人はカゲちゃんの恋バナに耳を傾ける。
彼女は今現在、取引先の営業マンに片想いをしているようで、お酒のせいなのか頬を赤らめながら悩ましい声を上げていた。
「もう、本当にかっこいいんですよ!イケメンだし性格もいいしで非の打ち所がなくて。そんな人に私なんか相手にされるわけないし……どうしたらいいですかね!?」
「連絡先は知ってるの?」
「仕事用の連絡先しか……」
「ダメじゃなーい!プライベートな方を聞き出さないと!」
「でもそれじゃ私の気持ちがバレちゃうし」
「恋愛なんてバレてなんぼよ!そこから相手だって意識し出すこともあるんだから!」
茜が懸命にカゲちゃんにアドバイスを送っている姿を見て、なるほどね、と密かに頭にメモしてしまう私。実践する気はさらさらないけど。
カゲちゃんの場合はともかく、同じ会社に好きな人がいるってけっこう辛い。
好きになって、アプローチして告白をしたとしても、断られたらその後が気まずくなるし、いい事なんて何もない。
早めのピッチでハイボールを煽るカゲちゃんは、決意したように右の拳を突き上げた。
「よし!じゃあ私、今度の取引が全部終わったら連絡先聞いてみます!それなら相手も迷惑じゃないですよね!?」
「いいぞいいぞ!頑張れカゲちゃん」
バンバンとカゲちゃんの背中を叩いて気合を注入した茜は、ぐるりと私の方に向き直る。
「菜緒は?どうなのよ?」
「え……どうって?」
もうすっかり冷めてしまった鍋料理を口に運び、あまり関心を示さないような態度で聞き返す。そんな私の態度が不満らしい茜が、口を尖らせてぷくっと頬を膨らませた。
「菜緒はいい人はいないのかってことよ」
「いないよ。そんなの茜が一番よく知ってることじゃない」
「なんでだろーな?可愛いのになぜ男はほっておくの?」
「私に聞かないでよ……それに別に可愛くないし」
反論することはしたが、言ってて惨めになる。
茜はそのことには全く気がついていない。