ハイド・アンド・シーク
店員さんに届けられたピーチフィズを、少し飲んでテーブルに置く。
漏れそうになるため息を堪えて、飲みすぎた越智さんの取り留めのない話を聞いていると、彼はぶしつけに携帯を出した。
「ねぇ、森村さん!連絡先教えて」
「えぇ!いや、それは……」
みんな見てるし!
慌てて断ろうとしたものの、完全に酔いが回っている彼から逃れられないような気がして、これは観念するべきなのかなと諦めの気持ちも出てきた。
ここではひとまず連絡先を交換して、その後に当たり障りなく対応すれば失礼にはならないか。
仕方なくスカートのポケットから自分の携帯を出そうとしたその時。
ガチャン!という音がして驚いて手を止めた。
テーブルに置いていた私のグラスが倒れて、ピーチフィズの海になっている。
「きゃー!!ごめんなさい!!」
動転して悲鳴めいた声を出したら、逆隣から思ってもみなかった人の声が聞こえた。
「ごめん、森村さん。俺がグラス倒しちゃった。服は濡れてない?」
いったいいつの間に私の逆隣に移動してきたのか、有沢主任がいて激しく動揺した。グラスが倒れた時より今の方が大きな声を出せる自信がある。
よくよく見ると、主任の向こう隣には彼と仲のいい営業部の人がいて、その人と話すためにこちらへ来たのだと分かった。
服は全く濡れていなかったので、軽く確認してうなずいてみせた。
「大丈夫です、服は濡れてな……」
「あぁ、やっぱり濡れちゃったね。おしぼりもらってくるから一緒に来てもらえる?」
「え?」
唖然とする私の腕を軽く引いた主任が、そのまま私を立たせてその場から連れ出す。
何が何だか分からないうちに後ろを見ると、越智さんが「またあとでねー」とデレッとした顔でこちらに手を振っていた。