ハイド・アンド・シーク


座敷席から降りて少し離れたところへ移動した私は、主任に「あの」と声をかける。


「服は大丈夫です。全然濡れてません」

「うん、知ってる」

「知って…………、え!?」


有沢主任は横目で私の肩越しに座敷席を見やり、店員さんに声をかけておしぼりを受け取ると、しゃがんで私のスカートを拭く仕草をした。

膝まづいて、丁寧に。
なんだかとてもドキドキした。


「越智くん、相当酔ってるみたいだったし。森村さん困ってなかった?無理やりお酒も飲まされて」


─────助けてくれたんだ。
すぐに分かって、胸が張り裂けそうになった。
こんなことされたら、誰だってときめいてしまうと思う。
それを簡単にスマートに出来てしまうから彼はすごい。

何も答えないでいると主任は立ち上がり、少し申し訳なさそうななんとも言えない顔で笑った。


「ごめん。もしかして、逆に迷惑だったかな」

「ちっ、違います!!」


彼がしてくれたことで胸がいっぱいで、どうしようもなくて言葉が出なかったとは言えない。

ありがたすぎて、私のことを見ていてくれたことが信じられなくて、越智さんの声が大きいから聞こえてしまったのかもしれないけれど、それでも言葉に詰まるくらい嬉しかった。


「越智さんは先輩だし、どんな風に断ればいいのか分からなくて。相手を嫌な気持ちにさせるくらいなら、連絡先くらい別にいいかなんて思ってしまって……」

「お酒も連絡先も、本当に嫌なら断っていいんだよ。たしかに会社の飲み会だけど、そういうところは割り切って付き合わないと」

「……はい」


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