ハイド・アンド・シーク
有沢主任はそのあと行き交う店員さんにまた声をかけて、なにやらグラスを持ってきて私に渡してきた。
「はい、烏龍茶」
「あ!ありがとうございます」
私が本当に飲みたかったもの。
レモンサワーでちょっと酔いそうだったから、ソフトドリンクでクールダウンしたかったのだ。越智さんには即刻却下されたのだけれど。
冷たいグラスを両手で包むと、コソッと彼が耳打ちした。
「越智くんには、ウーロンハイって言っておけばバレないよ」
「ふふ、そうですね」
「あと少しで宴会も終わるから、無理しないでね」
私と主任が席に戻った頃には、越智さんが立ち上がって二次会の参加者を募っていた。
そろりと彼とはなるべく離れた席に座り、素知らぬ顔でやり過ごそうとしたら越智さんに目ざとく見つけられてしまった。
「あ!森村さんは二次会参加確定だよー!」
茜もカゲちゃんも参加するようだったので、私も小さくうなずいておいた。仲の良い二人が来るなら、二次会くらいなんとか乗り切れるだろう。
越智さんはなんとなく、酔いの感じからすると二次会の途中でぶっ倒れるんじゃないかと期待を寄せた。いや、こんなことを期待してしまう私はだいぶ薄情だが。
「スカートは大丈夫?」と、茜がちょっと心配そうに眉を寄せていたので、私はちっとも濡れてなんかいないスカートをさりげなく隠して笑みを返した。
普段の私なら、きっと二次会には行かないで帰っていたと思う。
でも、こんなに胸が弾んでいる理由は自分でちゃんと分かっている。
好きな人と話せただけで、なんでも許せる気がした。
単純だけど仕事の事務的な話じゃなくて、普通の会話をすることは私にとっては重要なことなのだ。
今日の私は朝からツイてる。一年分の運を使い果たすほどに。