ハイド・アンド・シーク


二次会は、最初の居酒屋から少し距離を歩いたダイニングバーだった。

そこでは私と主任は一言も言葉を交わすことはなかった。
さっきから比べると人数は半分ほどになってしまったけれど、みんな親しい同僚と固まって飲んでいるような感じだ。

私は茜とカゲちゃんと、ひたすらくだらない話をして盛り上がった。


「だからね、私は何気に社食の鮫島さんがイケメンだと思うのよ〜。あの突き刺すような視線!たまらない!」

「斉木さん、いっつもそればっか〜。森村さんはどういう人が好みですか?」

「私は……笑顔が素敵な人、かな?」

「曖昧すぎる!」


二人に同時にダメ出しされて、ケラケラと笑う。

茜も最近は恋愛はご無沙汰である。彼女は目の保養としていつも社員食堂で働く鮫島さんという男性をお気に入りの一人として見ている。
一見すると殺し屋のような雰囲気さえ漂う鮫島さんは、見た目に相反して凄腕の料理人というギャップを持つ。

厨房で眉間にシワを寄せながら炒飯を炒める彼の姿を思い出して、私もなんだか楽しくなってしまった。


「鮫島さん、独立して会社の近くにお店出せばいいのに」

「あはは、毎日通うー!」


今頃、鮫島さんは大きなくしゃみをしているんじゃないかな。
こんなに話題にのぼるなんて思ってないだろう。

私はお酒とソフトドリンクを交互に飲んで酔いをコントロールしていたけれど、茜はだいぶ飲んでいる。それでも我を失わないところがお酒に強い証拠だ。

お酒に強くないのに飲みすぎた人といえば─────


「森村さん!飲んでますかー!?」

「あー、また来たよ〜あの人。菜緒ヤバいよー狙われてる。めんどくさっ」


また現れた、顔が真っ赤な越智さん。
茜が若干迷惑そうな表情を浮かべて、水をさされたとばかりに私を小声で文句を言う。

……もう大丈夫、たぶん。
私は茜とカゲちゃんに目配せをして微笑む。
彼女たちは哀れみの目で無言のエールを送ってくれた。


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