ハイド・アンド・シーク
彼は私の予想に反してぶっ倒れることもなく二次会のお店でも大きな声でお酒を注文し、ガンガン飲み続けていた。
これだけ酔っ払っているのに気持ち悪くなったりしないのかと不思議で仕方ない。
「飲んでますよ、越智さん」
と一応笑って答えると、彼は先ほどより照明が暗いからか目を細めて私を見つめてきた。
「どうですか、このあと二人で三次会とか!」
「いえ、終電がなくなるので二次会が終わったら帰りますね」
「タクシーで送るから!」
絶対、ウソ!
それくらい私にも分かる。
普段、会社で見る越智さんはとても爽やかで、フットワークも軽くて評判もいい人なのに。
お酒が入るとこうも変わるのかと正直驚いた。
今までも何度か飲み会で一緒になったことはあるけれど、あまり彼のことを気にしたことがなかったな。
私も社会人四年目。
酔っ払った人の相手は、少しは慣れてきたと自負している。
ここはひとつ、うまく切り抜けよう。
「越智さんって本当にお客様に評判がよくてすごいですね」
「えー?そんなことないよ!森村さんは仕事で悩みとかない?」
「私は大丈夫です。なんとかやってます〜」
「同じ営業課だし頼ってよ!一緒に考えるからさ!」
「あ、じゃあひとつ相談してもいいですか?」
合間にゴクゴクとオレンジジュースを飲み干す。
私に合わせて越智さんもお酒をグイッと煽っていた。そして、興味深そうに私に顔を寄せてきた。
もちろん、私の方は少し彼と距離を取った。
「好きな人がいるんです。どうやったら私のことを好きになってくれると思いますか?」
「え!!そうなの!?それって俺じゃない……よね?」
「違いますね」
ここで越智さんはトーンダウンした。
よし、この反応ならすぐ切り抜けられそう。