ハイド・アンド・シーク
お酒で気が大きくなっている茜が、楽しげにどうぞどうぞと私の背中を強めに押してくる。
「じゃあ主任!菜緒のことよろしくお願いしますー!なんなら家まで送ってあげてもいいですよー」
「ちょっと茜!」
慌てて抗議しようとしたが、ムキになって言い返すと変に意識していると思われそうなのでグッと我慢した。
「もうすぐ電車も来そうだし、ちょっと急ごうか」
茜が冷やかしている間に冷静に携帯で電車の時間を確認していたらしい主任が、私を手招きする。
はい、と返事をして急いで彼の元へ駆け寄る。
部長たちに「お疲れ様でした」と声をかけると、部長よりも先に茜が声を張り上げて手を振った。
「主任!送り狼にならないでくださいねー!私の大事な菜緒ですからー!」
とんでもないことを口走った茜の発言で、部長たちが大笑いしていた。
あまりにも聞き捨てならないセリフを吐かれたので、先ほどムキにならないと決めたのに即座に
「主任がそんなことするわけないでしょ!!」
と言い返してしまった。
「斉木さん、酔ってるね」
「……すみません、本当に。あんな失礼なこと」
「いえいえ」
主任は笑っていたけれど、私はうまく笑えなかった。
緊張もしていたし、これから数十分の間ずっと二人きりというのが、私の心臓が持ってくれるか心配だったからだ。
大丈夫かな、私。
隣を歩く背の高い彼を、見上げることもできなかった。