ハイド・アンド・シーク


少し考えるように黙り込んだ主任は、すっかり暗くなった私を励ますような口調で提案してきた。


「原稿できたら、よかったら一度俺に見せてくれない?」

「えっ!?で、でも……」

「まぁ、力になれるか微妙なところだけど、一人でやるよりは少しはいいかと思って。先月引き継いだばかりなら不安も大きいでしょ?」

うぅ、優しい。
優しすぎてますます好きになってしまった。

「広報部の人たち、厳しいんです……」

「だろうね。同期がいるんだけど、いつ会っても目の下にクマ作ってるよ」

「……ふふふ、クマですか」


私の目には、経営広報部の人たちは頭に角が生えているように見えていたけれど。主任が言うみたいに目の下にクマがあったら、と思ったらそれはそれでなんだか面白くなってしまった。

どう考えても笑うところじゃないのに吹き出してしまい、ハッと我に返る。
主任はちょっと安心したように私を見ていた。


「森村さんはいつも今以上に良くなろうって考えていて、その姿勢は本当にいい事だと思うよ」

「……そんなことは……全然……」

「でも、もっと自信も持った方がいいかな。ちゃんと仕事は出来てるから大丈夫だよ」


褒められることなんてめったにないので、なんとなく恥ずかしくて目を伏せる。
たくさんいるうちの部下の一人である私を、しっかり見守っていてくれていることが分かる。

嬉しくなっているところへ、主任が言葉を続けた。


「なんか思い出したよ、君と初めて会った時のこと」

「─────えっ?」


伏せていた目をすぐさま上げた。


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