ハイド・アンド・シーク
ひとつひとつ丁寧に指摘されたことをメモを取り、その度に仕事に対する自信が無くなっていく。
挙句の果てには添付した資料も間違っていたと言うからお粗末すぎた。
「一応、参考までに伝えたいんだけど」
落ち込みを隠しきれない私に、有沢主任は言葉を選びながらも淡々と話す。
「アナリストの求める情報って、先々の決算の内容を聞くような早耳情報じゃないんだよね。目先の業績数値に対する関心が高いのは、あくまで中長期的な成長プランが計画に沿って進んでるのかどうかを確認するためにすぎないわけで。だからそのへんを配慮しつつ書いていくとおのずと見えてくるんじゃないかと思うんだけど……。……伝わったかな?」
─────伝わってませんっ。とは言えない。
でも、その説明によって今までの私の考え方を変えなければ、この先もうまくいかないということは気付かされた。
コクンとうなずいて、「出直してきます」と主任からボツになった原稿を受け取る。
実は、私はちょっと甘い考えを持っていた。
主任が「原稿を一度俺に見せて」と申し出てくれた時、作成したものを読んでサクッと添削してくれるものだと思っていたのだ。
ところが実際は、口頭で指示はしてくれるけれど直接的に添削なんかはしてくれない。きちんと私が最初から最後までやり切るように助言してくれるというだけ。
甘っちょろい期待をしていた自分を恨んだ。
これじゃ、ただ私が仕事の出来ない部下というのをアピールしているだけのようで恥ずかしい。
それに追い打ちをかけるように、十四時頃に私のデスクを通りかかった徳田さんがフフフと笑った。
「菜緒ちゃん、まだリリース原稿書いてるの?まさか今日の仕事それで終わりにするってわけじゃないよね?」
イヤミだということは私でもすぐに分かった。
彼女は私だけじゃなく、後輩ならわりと誰かれ構わずこんな感じなので慣れたことは慣れたが、今は切羽詰まっているのでちょっと辛い。
「……主任から原稿提出の許可がおりません」
「大丈夫なの、それで?来月から別な人にお願いした方がいいんじゃない?他の仕事は?」
「他の仕事、……これからやります」
「期日守れないのだけは勘弁ね」
「はい」
分かっている。分かってはいるけど、悔しい。
キュッと唇を結んでいると、茜がわざとらしく身震いする仕草をした。
「お局とっくー超こわぁい。期日守れないのだけは勘弁ね、だって!あんたには迷惑かけないっつーのね!」
言い返せないのが痛いところ。
徳田さんの言う通り、リリース原稿は来月からはもっと違う別の仕事ができる人に交代すべきなんじゃないかと思った。