ハイド・アンド・シーク
結局、原稿を書くのにかまけて放置していた他の仕事に取り組み、そのおかげで残業は確定となってしまった。
前に進んでいない原稿を置いて家に帰るのは無理だし、明日の朝早くに出社しても間に合うとは到底思えない。
遅くなってもいいから、原稿は仕上げてから帰ろうと決めた。
「お先〜。菜緒、無理しないでね!」
「ありがとう。もうちょっとだけ頑張る」
茜は業務を終えて定時に上がってしまった。
その後も、パラパラと企画部の人たちは各自仕事を終えて帰っていく。
企画部のスペースに残ったのは私一人。
時刻は二十時。
営業部には、まだ三人残っていてそれぞれパソコンと睨めっこしていた。
「森村さんが残ってるなんて珍しいね。急ぎの案件でも抱えてるの?」
途中、営業部の一人が話しかけてきてくれたけれど、答えようとしたら誰かから電話がかかってきてしまい、その人は対応に追われていた。
言い知れない孤独感を感じる。
企画部の人間が私一人って、初めての経験だ。
やがて、そんな営業部の三人も仕事がひと段落したようで「お疲れ様」と帰っていってしまった。
だだっ広いオフィスに一人きり。
さすがにもう帰った方がいいんじゃないかと思い始めてきた。