ハイド・アンド・シーク
有沢主任は、私が泣き止むのを待ったのちどうしてそうなったのか、データが消えてしまったことに心当たりがないかどうかを尋ねてきた。
でも全くもって原因は分からない。
茜の席に座ってうなだれる私の頭を彼はポンポンと軽く撫でたあと、
「よし、出来るか分かんないけどちょっとやってみるか」
と私の席に座った。
彼がシャツの袖を腕まくりしてパソコンを操作し始めたので、信じられない思いで彼を見つめる。
「やってみる……ですか?」
「もうSEは残ってないだろうし、でもこのままじゃ森村さんだって気が気じゃないでしょ?やれることはやらないと」
「主任ってこっち関係も詳しいんですか?」
「まぁ、人並み程度かな」
そう言いながらも、普通の人よりも絶対に知識量は多いんだろうな。
イスから立ち上がって、彼の手元を覗き込む。
左手を顎のあたりに添えながら、右手でカーソルを動かして試行錯誤しているようだ。
「移動中にキャンセル処理したとか?」
「いえ、何も触ってません」
「うーん」
たまに仕事中にする、集中している時に見せる顔をしていた。眉間にシワを寄せて、ファイルをひとつひとつ確認しているらしい。
─────ただ忘れた携帯を取りに戻ってきただけなのに、こんなことに巻き込んでしまって。私の冬のボーナスを彼に全て渡したいくらい、申し訳ない。
コーヒーか何かを淹れて持ってきた方がいいのだろうか。
そんな悠長なことをやっている暇はないだろうか。
私に出来ることなんて、彼を見守るくらいしかない。なんて役立たずなんだ。
自責の念に苛まれる。