ハイド・アンド・シーク
真剣な表情でパソコンと向き合う主任の横顔をじっと見つめる。
派手じゃないし、すごくイケメンってわけじゃないけど、
─────かっこいい。
「森村さん」
見つめていた本人が突然くるりとこちらを振り返ったので、心臓が飛び跳ねた。
「は、はいっ」
「ご飯は食べた?」
「え?……いえ、まだです」
「下のコンビニで何か買っておいで。疲れた顔してる」
彼にそう言われて、私は無意識に自分の頬を両手で覆った。
疲れた顔って、酷い顔ってことかな。確かに今日はかなり追い込まれていて、外線電話をとる余裕もなかった。
ここで「大丈夫です」なんて言ってしまうと可愛げがないので、素直に軽食を買いに行くことにした。
お財布を手に、エレベーターに乗り込む。
下に着くまでに二つのフロアで止まり、数人のスーツ姿の人たちが乗り込んできた。
こんな時間まで残っているのは、私だけじゃないんだ。
他の人たちだって、大変な思いをしてるんだな。
コンビニで残りわずかになっていたサンドイッチと、ブラックのコーヒーと微糖のコーヒーを買った。会計を済ませて駆け足でまたエレベーターへ乗る。
急いでオフィスに戻ると、主任の話し声が聞こえた。
「……うん、そういうことだから今日はちょっと無理だから。……え?いやいや。……本当に仕事だって。変な疑いかけないでよ」
誰かと電話をしているようだ。
そういえば、友達から電話が来ることになってるって話してたっけ。
私が彼の元へたどり着くと、主任はおかえりの目配せをしてくれた。こちらも、声はかけずに軽く会釈する。
先ほどの茜の席に腰かけて、電話をしている彼の声に耳を傾ける。盗み聞きするつもりはないけれど、ここでは二人きりだし聞かないわけにはいかない。