ハイド・アンド・シーク
それから、私は買ってきたコーヒーを彼に渡した。
いったん休憩でもしようかと主任は手を止め、すぐにプルタブを開けてコーヒーを口に運んでいた。
……買ってきてよかった。
サンドイッチをもぐもぐ食べていると、不意に主任が
「今日はリリース原稿の件で色々悩んでたみたいだったけど、出来上がったやつは手応えあるの?」
と尋ねてきた。
手応えがあるかないかで言えば「ある」だけど、自信は伴っていない。
主任に言われたことを参考にしながら書き上げたつもりだが、明日広報部へ持っていった時にどう言われるかも不安で仕方なかった。
「たぶん……大丈夫だと思うんですが、自信は……ないです」
「けっこう何度も突き返したから、心が折れてないかと思って」
「お、折れましたよ!もう死にものぐるいでやりました」
原稿の度重なる指摘に加えてお局の徳田さんにもイヤミを言われるし、今日は散々だ。
それでも頑張れたのは、たぶん、主任に認められたかったからかもしれない。
「まさか最後に全部消えちゃうなんて思ってなかったですけどね」
「復元するよ、きっと。行き詰まってたけど、今ネットで調べてたら違う方法もあったから、それやってみる」
缶コーヒーをデスクの脇に置いて、彼は再び私のパソコンに手を置いた。
カタカタとキーボードを打ち、優しかった顔もさっきの真剣なものへと戻る。私は隣で、祈るように見つめる他なかった。