ハイド・アンド・シーク


「プロパティに以前のバージョンの項目が出てくれば、それに復旧機能があるからデータも戻せるらしいんだけど……。あ、あった。以前のバージョン」

「どれですか?」

「これ」

パソコンの画面を彼が指差す。その先を見ようと目を凝らして覗き込んだ。
ふと思ったよりも顔を近づけすぎてしまったことに気がついて、慌てて主任の方を横目で見やると、彼も少し困ったように私を見ていた。

しまった、嫌がられてる!

瞬時に悟って、すぐに覗き込むのをやめた。


「……私には、パソコンのことはよく分かりません」

「そんなことないよ。森村さんはよくやってる」


主任はすでに、いつもの穏やかな笑顔を浮かべていて、それに救われる。
嫌なことをされても、きっと顔には出さない人なんだろうな。

顔が近づいても、ドキドキしているのは私だけなんだと痛感する。

主任は私に、確認するように聞いた。

「日付と時間が出てきたんだけど、最新のを選んでいい?」

「……はい」

返事を返すと、彼がその通りに選択してクリックする。
画面が、読み込み中と表示されてしばらく沈黙が訪れた。


「─────来た」

と、主任の声がして顔を上げた。

パソコンの画面に、私が保存した原稿のデータが現れる。
それを見たら、ホッとしたと同時に熱いものが込み上げてきて、胸がいっぱいになった。


「森村さん、戻ったよ。良かっ……、ちょっと!泣かないで!」

私がまた泣き出したので、彼は困惑してオロオロしていた。
その姿は会社では見ることがないものなので、可愛らしくて愛しい気持ちに溢れる。

「…………良かったね。よく頑張ったよ」

優しい目で、優しい言葉をかけられるとさらに泣けた。
コクコクとうなずくことしか出来なくて情けない。

ふわりと頭に彼の大きな手が乗せられて、控えめに撫でられた。


─────あぁ、もうダメ。好き。


私の全身が細胞が、彼を好きだと叫んでる。
愛しくて苦しくて、抑え切れない。


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