ハイド・アンド・シーク
「すごい!よくここまで改稿したね。森村さん、いったいどんな魔法使ったの?」
経営広報部の人たちが、私が持っていったリリース原稿に目を通して開口一番のセリフがこれだった。
よっぽど前回のものが酷かったんだと思い知らされる。
「これならこっちで赤入れなくても、もうこのままいけるんじゃない?」
「そうだね。先週のあの調子じゃ今日の締切にも間に合わないと思ってたよ」
広報部の三人が顔を見合わせて、楽しそうに笑っている。
使えない企画部の女、とでも話していたのだろうか。
居心地が悪くてひとりで萎縮していると、右端に座っている広報部の主任でもある松村さんが「ねぇ、森村さん」と話しかけてきた。
「もしかして、これって有沢に見てもらった?」
「……どうして知ってるんですか?」
「あー、やっぱり!」
呼び捨てにしているあたり、親しい間柄というのはなんとなく察した。
もしかして彼が、主任の言っていた「目の下にクマを作っている同期」?
「有沢とリリース原稿の話をした時にね、森村さんのこと少しだけ手伝ってもいいかって聞かれたの。君が成長できるように、ちゃんと育てたいからって」
「そ、そうだったんですね……」
寝耳に水の話だった。
だって、私の他部署との仕事なんて主任の範疇にはないはずだ。
あの親睦会の帰りに一緒になったからこの話になっただけであって、彼の方から聞かれたわけではない。それなのにどうして?
そういえば、主任は今回取り扱うアナリスト向けの中期経営計画のことも知っていた。かいつまんで読んだだけなんて言っていたけれど、普通に考えたら直接関わりなどないのだからそこまで彼が把握していることが不思議だった。
そんなに気を回して部下のフォローをしてくれるなんて、上司の鑑だな─────