ハイド・アンド・シーク


結局のところ、有沢主任にとって私という存在は恋愛感情なんかは一切なくて、真面目に仕事に取り組む部下というカテゴリーからはみ出すことなくこの一年見守っていてくれただけなのだ。

私自身もこれと言って好きだというアプローチなんか全然見せてこなかったし、少し前までは見てるだけでいいと思っていたし、彼を好きな気持ちはいつだって心にしまい込んでいた。


それなのに、どうしてなのかな。

好きの気持ちが膨れ上がって、充満して、破裂してしまった。

見てるだけでいいと思っていたはずなのに、いつの間にかその思いも変わってしまって、どんどんワガママになっていく。


好きだと伝えた時、彼はとても驚いていたな。
当たり前か、意識すらしていなかった部下が唐突に告白してきたのだから。

あの時の、主任の驚いた顔が忘れられない。


普段はほとんど乗ることのない平日の車内が明るい電車に揺られて、ぼんやりと流れていく外の景色を眺める。
年休なんてあまり取ったことがなかったけれど、自分の仕事が立て込んでいなければこうやって使うのも有りなのかもしれない。

……自分の、気持ちの整理のためにも。


借りていたパーカーは、丁寧に畳んで紙袋に入れて主任が席を外している間にデスクに置いてきたけれど、メモも何もつけなかった。
下手なことをして別な誰かに見られてしまって、妙な噂になったりでもしたら彼に申し訳ない。これ以上迷惑をかけるわけにはいかない。


バッグにしまっていた、月末のコンペの資料を取り出す。
最近は、空いている時間を見つけては読み込むようにしていた。

少しでも彼に認められたいし、もっと期待をかけてほしいからだ。
たとえ、それが仕事面だけだとしても。

こんなことしか出来ない私は、なんだか滑稽にも思えた。



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