ハイド・アンド・シーク
家に置いているパソコンは会社のものと違って必要最低限の機能しかついていないが、余計なものが無いだけ使いやすい。
無駄になるかもしれないけど、予習して自分なりに分かりやすくまとめようとコンペの資料を読みながら、分からないところは調べたりして打ち込んでいく。
「えーっと……特殊な鋼製防音パネルを使用?なにこの表……見づらいなぁ」
独り言をブツブツつぶやきながら、業界用語が並ぶ資料の表を睨んで自分なりの言葉に置き換えて作り直す。誰が見るわけでもない、私が見るためだけ。
半年前の野崎さんみたいなことはないとは思うけれど、コンペにはきっと色々な人が来るはずだ。
何か聞かれた時に、「何も分かりません」という状態だけは避けておきたかった。
「へぇ、音楽教室にも使われる素材を使うんだー。書いておいてくれればいいのに」
壁紙や床に使う素材について調べているうちに、確かにここまで徹底した防音設備を各部屋に使っているならば、コンセプトでもある「戸建ての静かな住みよさ」は実現できるかもしれない。
私が住んでいるマンションだって、鉄筋コンクリート造だから木造アパートに比べたら生活音なんかはあまり聞こえないようにはなっているけど、それでもやはり上の住人の足音や物を落とした時などは普通に聞こえてくる。
そういったものがほぼ聞こえないのならば、他人の生活音というストレスからは解放されるだろう。
人によって気にする音の度合いは違ってくるだろうが。
仕事や趣味で楽器をやっている人などはひとつの部屋に防音設備を充実させている人が多いだろうけど、全ての部屋に施すのはなかなかすごい。
新宿の一等地に建つのだから、住むのはセレブかな。
思考がおかしい方向へ進んでいった。