ハイド・アンド・シーク
するとその時、携帯が急に鳴り出したので少し驚いて顔を上げる。
手元に携帯がなかったので、キョロキョロと辺りを探し回った。
「どこだっけ!?」
鳴り続ける携帯の音を頼りに、ようやくバッグの中にあったのを発見して画面を確認する。
『会社 企画部事務所』
という表示を見て、サーッと血の気が引いた。
─────私、何かやらかした?
急いでロックを解除して電話に出た。
「はい、森村です!」
『せっかく休んでるところ、申し訳ない。有沢です』
電話の相手は思いがけない人だった。
一瞬にして背筋がピンと伸び、そして私の心臓は激しく鳴る。
声を聞くだけでこの条件反射は、もうどうにもならない。
気まずいしドキドキするしで心が忙しい。
「おっ、お疲れ様です……」
『今、大丈夫?』
「大丈夫です。家にいますから」
『明後日が期日の、クライアントが唐渡会の介護施設についての会議録って、もう作り終わってる?』
主任の言葉を二、三回ほど頭の中で反芻して「あ!」と声を出す。それならば、もうすでに作成済みだ。
「一昨日の会議のあと、すぐ作りました」
『……さすがです。悪いんだけど、それが今すぐ必要になった。データはどこにあるかな?』
若干だけど、いつもよりも主任の声が焦っているというか、急いでいる感じがしたので私もなるべく手短に答える。
「USBに移してあります。私のデスクの一番上の引き出しに、赤いUSBがあると思うんですが、それの……」
『………………っ』
「主任?」
電話の向こうで、なんとなく主任が笑ったような気がしたので不思議に思った。
おかしいことなんて言っていないのに、どうして?
そう思っていたら、彼が『ごめんごめん』と謝った。
『引き出しを開けたら、お菓子がいっぱい出てきたから、つい』
「あっ、そ、それは……!すみません……」
疲れた時のお菓子として、引き出しに常備してたやつ!主任に見られてしまった!!恥ずかしすぎる!!
携帯を持っていない左手で、思わず顔を覆った。