ハイド・アンド・シーク
─────迎えた土曜日。
晴天、曇ひとつない。清々しい朝だった。
昨日準備をしておいた服に身を包み、ベージュのトレンチコートを羽織ってバッグに必要なものを詰め込んで家を出た。
緊張で昨夜は寝つくまでに時間がかかってしまった。
やや眠い頭を奮い起こして、土曜の少し空いている電車に乗り込む。
見慣れた景色が窓の外を流れていくのを見ながら、コンペへの不安と緊張、そしてその後に訪れるであろう私の一年に及ぶ片思いの終了へ思いを馳せた。
「おはよう、菜緒!いよいよだね!」
会場に着くなり、後ろから茜に声をかけられた。
彼女はネイビーのジャケットとフレアスカートを着ていて、やはりいつもの私服よりもかなりカッチリとした印象だ。
心なしか顔に緊張が見てとれ、私も茜も初参加のコンペにドキドキしていることは明白だった。
コンペ会場は、最新の3D機能やVR技術も使うことの出来る都内でも有数の建物のひとつ。
近未来的な建物なので、迷うことなくここまでたどり着くことが出来た。
早めに来たつもりだったが、ライバルとなる会社の工清ハウスの関係者もすでにたくさん来ており、着々と準備を進めている。
前もって打ち合わせしていた通り、それぞれ会場の割り当てられた場所の設営に当たる。
力仕事は主に男性社員が率先してやってくれた。
もちろんその中には有沢主任の姿もあり、永遠に彼を見つめていたいという気持ちをなんとか我慢して、私はこれからテーブルに並べる予定の自社の筆記用具や書類の部数が足りるかを確認していた。
「菜緒ちゃん、ほらこっち!人手足りてないから手伝って!」
毎度私をこき使う徳田さんは今日は黒いフレームのメガネをしていた。赤いフレームは、あまりビジネス向きではないとの本人の判断なのか?
彼女に手招きされて駆け寄ると、まだまだ並べ切れていないテーブルを指差された。
「これ、中に運んでくれる?」
「分かりました」
次々と男性社員が運んでいく中に混じって、私もよいしょと持ち上げてコンペ会場の中へと向かう。