ハイド・アンド・シーク
─────会場全体の照明を薄暗くし、前方の画面モニターを見やすくしたあとに話が続く。
『弊社では、高層マンションは免震構造を取り入れております。資料の五十六ページをお願い致します。こちらに使う予定の高強度積層ゴムは建築基準法に則って弊社とゴム会社が独自に開発したもので、ゴムに炭素などを混ぜて圧縮・引張り強度を高めたものです。図の八十一を参照下さい。一般的な高層マンションがAとして、Bが弊社のデータとなります。これにより地震時に建物の柱脚部に作用する引抜き力に抵抗することができ……」
営業部の部長が、少し緊張気味にモニターに移る図形や計算表を指し示しながら説明していく。
誰もが皆、ひとつひとつの言葉を聞きながらモニターと資料を見比べて、人によってはメモを取ったりしている。
私も会場の後ろの方で、今まさに説明している部分の資料と自分で作った資料を見比べているところだった。
建築基準法がどうとかデータがどうとか書かれて、クライアントはどこまで理解できるのか分からないが、少し前の私にはちんぷんかんぷんだった。
「コンセプトにもあります通り戸建ての住み心地を追求していますので、特に防音対策にはかなり力を入れております。防音レベルに関してですが───」
淡々と説明を続ける部長の声の陰で、ボソッと私の目の前に座る白髪の男性が
「さっぱり分かんねぇな」
とつぶやくのが聞こえた。
僅かに私の隣にいる徳田さんがピクリと肩を揺らしたのが分かったが、私はどうすればいいのかも分からず、目だけをキョロキョロ動かして周りの反応をうかがう。