ハイド・アンド・シーク
その時、私は自分の手に持っていたもうひとつの資料のことを思い出した。
資料と呼ぶにはおこがましいが、専門用語はほとんど並んでいない、コンペの資料で分からないところを勉強するために作った自分用のもの。
邪魔にならないように私も腰を落とし、徳田さんの元へ向かった。
「……あの、失礼します!」
緊張が口を伝わり、掠れて震えた声で話しかけてしまった。
目を丸くした徳田さんの顔と、今度は誰だと怪訝そうな白髪の男性の顔が私の方へ向けられる。
深く一度頭を下げて、徳田さんに私の作った資料を渡した。
徳田さんは見たこともない資料の束をパラパラとめくり、視線は落としたままで尋ねてくる。
「なに、これ?…………あなたが?」
「はい。作ったんです!使って下さい」
「こんなの使えるわけないでしょ!」
「せめて防音のところは読んでみてください!」
と二人で押し問答をしていたら、その資料を男性がひょいとつまんでにっこり微笑んだ。
「読ませてくれ」
「で、ですがそれは正式なものではなくっ……」
「いいんだ。読んでみたい」
呆気にとられる徳田さんを尻目に、男性はかけていた眼鏡を外して資料を少し読んだあと、不意に私を見つめてきた。
とても上品で柔らかな表情をしていたけれど、内側に厳しさもあるような目をしている。
なんか……怖い。
そう思っていたら、彼はフッと目を細めた。
「君は営業の人?」
「……いえ、違います。企画部で事務員をしております、森村と申します。差し出がましいことをしてしまって申し訳…」
「これ、今すぐ全員分印刷してみんなに回せるかな?」
「─────え!?」
私よりも先に、隣の徳田さんが大きな声で聞き返していた。