ハイド・アンド・シーク


ところが、話は突然急展開した。それも、百八十度。

「えー……、それではお手元に新しく届いた資料を開いて下さい。防音対策につきましては、こちらで説明致します。……そうですね、居室等の壁に使われるのは音楽教室でも使われている防音機能に長けたもので、窓にも防音サッシを採用しております。左右の部屋にはマイナス八十デシベル、上下の部屋にはマイナス七十七デシベルを実現できます。ピアノの音なんかは八十デシベル程度ですから、上下の部屋に聞こえるのは三デシベルちょっと。ささやき声よりも小さいレベルですね」

会場に部長の声がマイクを通して響く。

読んでいるものは私が作成したものなので、当然、今プレゼンしている部長は初見のもの。それでもちゃんとすらすらと自分のもののように説明しているのだからすごい。

映し出されたモニターには、数週間ひたすら地味に勉強し続けた私の軌跡がバーンと載っている。


「このように、趣味や仕事で音楽関係に携わっている方だけでなく、静かな暮らしを追求したい方にはうってつけな造りになっているわけですね……、…………ん!?」

部長が、途中で言い詰まって咳払いした。

なんだろうと私も会場のみんなも顔を上げると、資料の下に私の手書きの文字までしっかり映り込んでいた。

「………………セレブ仕様、というのは語弊がありますが」

と、部長の苦虫を噛み潰したような声。その顔は苦笑いだ。

クスクスと会場全体から笑い声が溢れて、私はもう顔を上げられなかった。
自分しか読まないから、好き勝手にイメージを書き込んでいたのだ。消す暇もなく印刷されて配布されたからどうしようもない。

「……森村さん、森村さん!」

資料で顔を覆っていたら、先ほどの白髪の男性が私を呼んで手招きしているのが見えた。

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