ハイド・アンド・シーク
「いいねぇ、ユーモアを交えた楽しいプレゼン」
セレブ仕様は、別にユーモアのつもりで書いたんじゃないんだけど。
「…………こ、この度は私の資料を使っていただいて……」
「あーあー、堅苦しいのやめて。そういうの俺、嫌いだから」
男性はカラカラと笑うと、おもむろにジャケットの内ポケットから名刺を取り出して私に差し出してきた。
反射的に両手で名刺を受け取り、私も自分の名刺を出そうとして一瞬目に飛び込んだ彼の役職名に言葉を失った。
『名誉会長 玉造健郎』
め、名誉会長!?
目を丸くして固まった私を見て、彼はたいそう満足そうに笑っていた。
「そういう反応、最高だね。仕事に対する姿勢もそう。何事も最初から決めつけないで、やれることはやる、つねに向上心を持つ、準備を怠らない。いいことだ」
「そ、そんなことは……」
名誉会長に下手なことは言えないので、言葉にも詰まる。
緊張に緊張が重なり、私の頭はパニックだった。
ぶわっと吹き出した汗で、うまく自分の名刺も取り出せない。
彼はそんな私の手から、さっき資料をつまみ取った時と同じように名刺をつまんで、にっこり微笑む。
「息子が新しくマンションを建てるって言うから、暇つぶしにコンペ会場に来てみたけど、楽しかったよ。ありがとう、森村さん」
差し出されたちょっとシワっぽい右手に、私もおそるおそる右手を出す。
ゆっくりと握手を交わして、ぎこちない笑顔を彼に向けた。