ハイド・アンド・シーク
途中下車した先には
その夜、親睦会を開いたあの居酒屋を貸し切って、私たちは祝杯をあげていた。
「森村さん、ありがとー!!」
「うちの会社の勝利にカンパーイ!!」
親睦会よりも明らかに人数が多く、副社長をはじめ営業部の部長も参加していて、私としては肩身が狭かった。
これといって何かをした覚えがないのに、みんなにありがとうを言われるのもなんだかくすぐったいような申し訳ないような。
「何言ってんのよ、菜緒が名誉会長に気に入られたから勝てたようなもんじゃないの!」
「いやそれはなんか違う気がする」
茜にすごまれて、私は返す言葉もなかった。
気に入られたというか、からかわれたというか。
あんな稚拙な資料を褒められたのは初めてだった。まさかあんなのが目に留まるなんて考えもしなかったから。
何はともあれ、このコンペに賭けて頑張ってきた営業部の人たちや、有沢主任のこれまでの努力や苦労が報われたのなら、それだけで満足だ。
そのために少しでも役に立てたかな─────
「森村さん、斉木さん、お疲れ様」
ぐいっ音もなく茜と私の間に割って入ってきた徳田さんが、昼間とは違うお馴染みの赤いフレームのメガネをかけて登場した。
片手にはビールのグラスを持っている。
「徳田さん!お疲れ様です」
「まさかこんか展開になるとは思ってもみなかったわね」
「は、はい。本当にビックリしました」
「クビにならなくて良かったわねぇ」
おほほほ、と徳田さんは手を口元に添えて高笑いしながら別な席へ移動して行った。
その様子を眺めながら、茜が悪態をつく。
「なによ、あの偉そうな態度!とっくーのやつ、名誉会長の質問に全然答えられてなかったくせに!」
「いいよ、茜。徳田さんのあれはいつものこと」
もう慣れっこだ。