ハイド・アンド・シーク
呆れるくらい
これから先の予感は、私の心臓が持つかどうかという切実な問題に直面していた。
振られるとしか思っていなかったので、大した下着も身につけていない。
終電がないので電車で帰るわけにもいかず、私たちはタクシーに乗り込んだのだ。
ここからならば、三千円もあれば足りるくらいの距離。
車中、これといった言葉を交わすこともなく、チラッと隣に座る主任を見ると、私の視線に気づいた彼がふわりと微笑む。
─────あぁ、もう、神様。この人を独り占めしてもいいんですか。バチが当たるなんてことはないですか。
必死に仕事をしてきたこの一年間を彼がちゃんと見ていてくれたというのなら、自分の頑張りが恋愛成就に繋がったと思うと嬉しい。
彼に認められたくて走ってきたようなものだからだ。
さっきからずーっと頭にまでガンガン響くような心臓のドキドキが凄まじくて、このままいくと一生分の脈をうってしまうんじゃないかと心配になった。
目が合うだけでも息が苦しくなるのに。
恋愛経験だって豊富な方じゃないし、胸もなければクビレもない微妙な身体にガッカリされないだろうか─────
余計なことばかりを考えていたタクシーの車内。
その心配は三十分後、杞憂に終わる。