ハイド・アンド・シーク
築年数はそんなに経ってなさそうな、綺麗な外観のアパートの二階。
階段をあがって二部屋目が彼の住む部屋だった。
お酒は飲んだけれどどちらもそれほど酔っていない。
だから、意識だけはちゃんとしっかりしていた。
部屋の玄関に入って、パンプスを脱いだかどうかも定かではないあたりで唇を重ねた。
触れるだけのキスのあと、暗がりでじっと見つめ合う。
彼の目は、出会った時とずっと同じ。
優しくて穏やかで、そして飾らない。
その目がいつも私を見ていてくれたんだと思うと、むず痒い。
何度かついばむようにキスを繰り返したあと、私は彼に連れられてベッドまで移動した。
このアパートの部屋が、どんな間取りだったかなんて気にかける隙間もなかった。職業柄、友達の家なんかに上がる時はつい気にして見てしまうのだけれど、今日はそんな余裕はない。
カーテンを締めていない、月明かりが漏れる部屋の中で何度も唇を重ね、彼に首筋にキスを落とされたあたりでようやくいま自分が置かれている状況に腹をくくった。
こぼれるため息とは違う甘い吐息を隠しきれなくて、なんとか飲み込む。
もう、彼に全部を捧げる覚悟はできた。
というか、全部あげたい。
彼もまた私をすべて包み込むみたいに、大切に愛おしそうにキスをくれて、優しく触れる。
言葉だけじゃ補えない、触れ合うことで確かめ合えるものを、ストレートにかっこつけずに、遠回しにすることなく伝えてくれた。
彼は特に女慣れしているような感じはしなかった。
かと言って一連の流れが滞るわけでもなく、すんなりと私のコートやジャケットを脱がせ、ブラウスのボタンを外すあたりで少し手間取っているだけ。
思わず笑みがこぼれた。
「……ふふ」
「ごめん。暗くてよく見えない」
懸命に目を凝らしている様子なので、自分で脱ぎますと言ったら、
「思ってたより大胆だね」
と笑われた。
「そ、そんなことは」
急いで否定しようとしたところへ、再び唇を塞がれてそれは空振りに終わる。
顔を離したあと、主任が思い出したように私に尋ねてきた。
「うち、木造なんだけど、大丈夫?」
「はい…………、何がですか?」
「今日のコンペで扱ってたような防音対策はなってないから、隣に聞こえないように我慢してね、声」
「それは─────自信ありません」
自信がないと言ったのに、早速彼は意地悪でもするみたいにまた首筋にキスをした。
無理だな、たぶん。声は我慢できない。