ハイド・アンド・シーク


主任がお友達グループとアパートを出て行ったあと、私は彼のお言葉に甘えてシャワーを借りることにした。
人様の家を物色するみたいでなんとなく気が引けたけれど、正直あのまま抱かれていたら、仕事のあとの汗とかお酒の匂いとか、自分では気づかないようなものがちょっと気になってしまったかもしれない。

カーテンを締めてから、ルームライトのスイッチを探して明かりをつける。
リビングも寝室も、ちゃんと片付けられている綺麗な部屋。
考えて収納されているというよりも、最低限のものだけで生活しているような、物が少ない印象だった。

リビングを出て浴室の場所を確認してから、洗面所で服を脱ぐ。

水色の歯ブラシがひとつだけ置いてあるところが、完璧なまでの一人暮らしの証拠みたいでホッとした。


熱いシャワーにうたれながら、何度も「これは夢じゃないんだ」と顔がほころぶ。
だって私、いま主任の家のシャワーとか使っちゃってるし。

誰かに自慢したいのに、出来ないジレンマが心苦しい。
社内恋愛なんて、初めてだ。
茜にくらいなら、話してもいいかな。びっくりしてくれるかな。


シャワーを浴びたあとリビングに戻ると、以心伝心みたいに私の携帯に茜からのラインが届いていた。

『さっき三次会終わったよ。菜緒は無事帰宅?』

どこかの彼氏のような内容に、ふっと吹き出してすぐに返信した。きっと彼女は酔っていて、今こんな文章を送ったところでちゃんとしたものは返ってこないだろうから。

『恋人ができました』

それも、超のつく素敵な。








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