ハイド・アンド・シーク
エピローグ
「今日ってエイプリルフールだったっけ?」
「ううん、違うよ」
「えぇ!?じゃあ今の話って本当の話なの!?」
そうだよ、と私はこくんとうなずく。
会社では誰かに聞かれる可能性があるので、社員食堂じゃなく歩いて三分のカフェに来ていた。
お昼時なので、少し混雑している。
その中で、茜はあんぐりと口を大きく開けて塞がっていない。
「嘘でしょ……私、冗談のつもりだったのに」
「まぁ、私もまだあまり実感は」
「なによ、土日でイチャイチャしてきたんでしょ、顔に書いてあるわよ!実感がないとか嘘つかないでよね!」
真っ昼間のカフェで、イチャイチャとか変なワードを出さないでほしかった。
半径二メートルほどの周りのお客さんたちは、揃って私たちに視線を向けてくる。
居心地の悪さにため息をつきながらも、私はトマトソースパスタをもそもそと口に運んだ。
茜は頬杖をついて、いまだに驚いたような表情を崩すことなく私を見ていた。
「まさか、有沢主任と菜緒が……ねぇ。意外な組み合わせ」
「そうだよね、釣り合わないよね」
「ううん、そうじゃなくて。なんか、二人とも受け身っぽいから恋愛に発展しなそうだと思ってたの。どっちも控えめじゃん」
「先に告白したのは私」
「意外と押すタイプなんだぁ。こんなに仲良いのに分かんなかったわ」
正しいことを言うと、私は決して押してはいないのだが。
それに、主任は別に受け身ってわけじゃない。優しいから強引に来ないだけで、わりときちんと気持ちは口にするし、リードの仕方も上手だ。
これは年齢の差もありそうな気もするけれど。
私が主任と付き合うことになり、後輩のカゲちゃんも好きな人とデートをすることになった。
一人置いてけぼりの茜は、さすがに焦ったのか
「こうなったら社食の鮫島さんに本気で行ってみるかなぁ〜」
と、リアルなつぶやきを漏らした。
お酒が入っていない分、本気度が高い。
「あの人はなかなか難しそう」
「そこがまたいいんじゃない」
私たちはフフフと笑い合った。