ハイド・アンド・シーク


「これからは絶対にタバコは吸いません、と約束してもダメ。俺たちと一緒に現場監督に謝罪させてもダメ。最終的に、完成した建物の空気汚染検査及び洗浄を約束したら、やっと納得していただけたよ」

「……お疲れ様でした」

「しめて、十五万。外部委託費用で、全部ウチ持ち」


高い損失だ、と唖然としていると、不意に彼に抱き寄せられた。
突然のことに驚いて身を固くしていると、

「仕事の話はこれくらいでいいですか」

とぼやきとも取れそうな声でそう言われ、ハッとなって「すみません」と謝る。

「せっかく二人なのに、仕事のこと持ち出して……」

「どうしてか、俺たちってたいてい仕事の話をしてしまう傾向にあるよね」

「それは私がきっかけを作っているような」


言い終わらないうちに、キスをされて話は強制終了。
指を絡められて、その場に押し倒された。


「鉄筋コンクリート」

と、彼がつぶやいたのでつぶっていた目を開けて「え?」と見つめた。

「森村さんのマンション、鉄筋コンクリートでしょ」

「はい、そうです」

「じゃあ、今日は我慢しなくていいよ、声」

「─────もう、声に関しては言わないで……」

恥ずかしくて死にそう、と顔を隠したら楽しそうな笑い声が降ってきて、私までつられて笑ってしまった。


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