キスからはじまる
「じゃあ、行こうか。俺、はじめてなんだよね」
「そうなの?わたしも、中学のとき1回行ったきりなの…!」
そのときはもちろん友達と来た。
だから、好きな人とは、はじめてだ。
世良くんと叶えることができて、ほんとうに幸せだ。
まだデートははじまったばかりなのに、すでにこんなに幸せな気持ちになって、いいのかな。
世良くんに会ったら、もっと緊張すると思ってたけど、案外大丈夫そう。
これまで何度もふたりの時間を過ごしたもんね。
今日が一番、ふたりで長く過ごせる。
世良くんとたくさん話して、もっともっと仲良くなりたい。
世良くんのこと、もっともっと知りたい。
わたしの気持ち、受け取ってくれますか…?
……それを伝える前に……
ふたりの時間は──
あっという間に終わりを告げたんだ。
「──匠っ!」
わたしは世良くんのことを、世良くんって呼んでる。
だけど、世良くんの下の名前にも過敏に反応する。
だから、このとききっと、世良くん本人よりも、わたしのほうが先に後ろを振り向いたと思う。
「……瑠美……?」
わたしは同じ名前の人がいるだけだと思ったのに……それはちがった。
わたしの隣にいる、世良くんを、呼んだんだ。
そして、世良くんも女の子の名前を告げた。
それは、聞いたことがある名前だった。
“瑠美”
世良くんが、寝言でつぶやいた、あの子の名前だった。
「瑠美、なんでここに…、明日帰ってくるんじゃ…」
わたしは戸惑いを隠せないでいた。
そして、一瞬で胸がざわめきだした。
ただなにも言えず、世良くんと、瑠美と呼ばれる女の人を、ちらちらと見た。
高校生には、見えない。大学生だろうか。
「匠を驚かせようとして…今日帰ってきたの」
瑠美さんの顔は、えらくひきつっている。
それは間違いなく…わたしの存在のせいだ。
「さっき匠の家に行ったら、ここのイルミネーションを見に行ったっておばさんに言われて…。てっきりわたしと行ったのかもって、おばさん、言ってた…。それで、まさかと思って見に来たら……」
瑠美さんは続きは言わなかった。
その代わり、わたしのことを真っ直ぐに見た。
胸がドクッと音をたてた。
わたしは……ふたりの邪魔を、してる……?
だけど、引き下がったのは、彼女のほうだった。
泣きそうな表情を浮かべて、わたしたちに背を向け、去っていった……。