キスからはじまる


「…西埜」


ただ名前を呼ばれただけなのに。


きゅうっと胸が痛いくらいに締め付けられた。


だって、世良くんがわたしを真っ直ぐに見つめるから──。


「…西埜、信じてほしい。俺は今まで、いい加減な気持ちで西埜に接してきたんじゃない」


「…っ」


世良くんの表情は、瞳は、真剣そのものだった。


「……俺は、西埜のことが……」


「っ言わないで……!」


すぐに、止めた。その、次に続く言葉を。わたしがほしいはずの、その言葉を。聞いてしまったら……気持ちを止められなくなってしまうから。聞いてはいけない。わたしは……引き下がらなければ、ならない。


「瑠美さんのところに、行って……っ」


行かなきゃ、だめだよ。


だって……瑠美さん、ものすごく悲しそうな顔、してた。泣きそうな顔、してた……。


わたしが瑠美さんなら……世良くんにそばにいてほしいと思う。


世良くんも、息苦しいときもあるかもしれないけど……瑠美さんのそばにいるって決めたなら、ちゃんと、貫いてほしい……。


だから……これで、最後。


これで、最後にする……。


わたしは一歩、前に出て……世良くんの腕を軽くつかみ、自分のほうへと、引き寄せた。


世良くんの少し驚いた表情が見えたけれど、自分でももう、止められなかった。


……人混みの中、迷いなく、煌めくイルミネーションの真ん中で──彼の唇に、自分のそれをゆっくりと重ねた。


ほんの短い時間。だけど、それだけで十分だった。


「世良くん…ばいばい」


精一杯の、笑顔を作った。


そして、すぐに彼に背を向けた……。


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