キスからはじまる



行き交う人々のなか、ひとり。


鼻の奥がツンとしてきて...一気に、涙が込み上げてきた。視界が揺れる。イルミネーションが、歪む。先ほど彼に触れた唇が、震える。


イヴの夜に、世良くんとふたりで見ることができた、きらびやかなイルミネーション。


もう……それだけで、十分だ。


そう思うのに、相反して、止めどなくこぼれる涙。


胸がぎゅうっと締め付けられたみたいに痛くて、うまく息ができない。


終わりを告げて……しまったんだ。


わたしはもう、世良くんへの気持ちにサヨナラしなければならない。


世良くんと同じ気持ちだったかもしれないのに、消さなきゃならないなんて……こんな苦しい両思いがあるなんて、わたしは知らなかった……。


こんなに苦しくなるのなら、世良くんのこと、好きになりたくなかった。


こんな気持ち、知りたくなかった。


………無知なままで、いたかった。


──10回目のキスは、覚悟を含んだ、今までで一番悲しいキスでした。

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