キスからはじまる
どうして…。
どうして……世良くんが、ここに?
振り返った、彼。
正面から見ても、正真正銘、世良くんだ。
「田中くん、は…?」
わたし、うまくしゃべれているだろうか。
だって、さすがに無言なんて、いやだ。
世良くんへの気持ちは消すけれど、一切しゃべりたくないとか、そんなんじゃないから。
「田中に変わってもらった」
言いながら、整理をはじめる。
さっきまではやく終わらして帰ろうとしか頭になかったはずなのに、いっきに混乱してきた。
変わってもらったって…どうしてわざわざ?
めんどうな仕事なのに。
わたしたち、今、気まずいだけなのに。
どうしてそんな困るようなことするの?
意味がわからないよ…。
頭にはそんなことばかり浮かんだけれど、言葉にはできず、世良くんに背を向けるようにしてわたしは反対側の棚の整理をはじめた。
……ほら、やっぱり、気まずい。
……ずっと、無言だ。
こんなんじゃ、一人で全部したほうがましだよ…。
「…世良くん、帰ってもいいよ…?」
わたしは整理をしながら、おずおずと告げた。
「…」
「たのまれたのは、わたしと田中くんだから…」
少しの、沈黙が流れて。
「…なんで、そんなこと言うの」
世良くんの声が、わたしのほうを向いているのがわかった。
「俺が…西埜とふたりきりになりたかったんだ。残らなくても、呼び止めるつもりだった」