キスからはじまる


「じゃあどうして……あの夜、俺にキスしたの」


一歩、近づいてきた。世良くんの香りが鼻をかすめる。それだけで酔ってしまいそう。


あの夜。


あの、クリスマスの夜──。


どうしてって………そんなの決まってる。


世良くんのことが、好きだから。


好きだから、最後にもう一度だけ、キスしたかった……。


だけどこんなこと………言えるわけがない。


言葉になんてできるわけない。


言葉にしてしまったら、もう抑えきれなくなる。


わたしは必死に抑えようとしてるのに…世良くんはまた、近づいてきた。


「言わないなら……俺が言う」


寒さなんて忘れてる。頭のなかは目の前にいる世良くんのことだけ。


「……あの夜にも言ったけど…いい加減な気持ちで西埜に接してきたんじゃない。西埜だから優しくしたし、西埜だから……キスした」


一言一言が、わたしの耳に吸い込まれて、ふわりと溶けて…


「俺はもう………西埜としか、キスしたくない」


そして、染み込んでゆく。


「俺は西埜が好きなんだ………」


あの夜ほしかった、その言葉を。


透き通るようなその声で、届けてくれた。

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