キスからはじまる


「……うれしい」


彼はそう言って、わたしの体を自分のなかに引き寄せた。


ぎゅうっと抱き締められる。


世良くんの体温。


あたたかくて、優しくて……ほっとする……。


好きって気持ちが溢れて……止まらなくなる。


だけど……。


「世良くん……」


「……ん…?」


「わたし…このままじゃ……」


このままじゃ、世良くんとちゃんと恋人になれない。


瑠美さんが世良くんと別れることをちゃんと納得してからじゃないと……。


「……わかってる。もう少しだけ、待ってほしい」


わたしが言いたいことがちゃんと伝わったようで、世良くんは真面目にそう告げた。


そして体をゆっくりと離した。


「ちゃんと付き合うまで……西埜に触れない」


そう言って一歩後ろに下がった。


体温が少し下がってゆく。


わたしはこくりと頷いた。


「待ってるね」


世良くんだから、信じられる。


わたしも、世良くんにしか、触れてほしくないよ。


「ありがとう、…胡春」


いきなり名前を呼ぶもんだから、びっくりして顔が熱を持った。

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