キスからはじまる
「…可愛い顔、しないでよ。触れたくなる」
そうやってまた、熱くなるようなことを言う。
さらっと平気な顔していうもんだから、わたしもどんな反応をとっていいかわからなくなる。
「ま、真っ暗になっちゃうから、帰ろう…!?」
なんて、完全に照れ隠しだ。世良くん、笑ってるし。
「も、もう、行くからねっ」
そう言って扉のほうへ向かおうとしたら。
するりと手のひらを繋がれた。
ついさっき、“触れない”と言ったばかりなのに。
「世良くん…?」
大きな手のひらに、ドキドキする。
わたしもぎゅうって握り返したい…。
「…ここから出たら、もう触れない」
「…っ」
それはつまり……ここを出るまでは、触れていいということ…。
思わず、思いのままにぎゅうっと握り返した。
すると世良くんはうれしそうに目を細めて、わたしを見つめた。
見つめあって、数秒……。
言葉はもう、いらなかった。
考えていることは、きっと、同じ──。
──はじめてどちらからともなくしたキスは、今まで何度も唇を重ねているはずなのに、どこかぎこちない、想いの溢れた甘酸っぱい11回目のキス。
この瞬間から、
新しいわたしたちが、はじまった。
──キスから、はじまる。
end