キスからはじまる


だから、わたしもちゃんと呼びたい…っ。


「っ……た、たく……。……世良くん」


匠くん。


うう、やっぱり呼べない。


しかも、そんなに見つめられたら呼びにくいよ…。


「呼ばないと…キスするよ?」


君はそうやってまたずるいことを言う。


だからわたしも……。


「……それなら…」


「…?」


「それなら、もう呼ばない……っ」


呼ばなかったら──してくれるんでしょう?


「言ったね。……もう知らないよ?」


「え…──んっ」


世良くんはふっと笑うと、首を横にして、わたしの唇をふさいだ。


少し勢いよくぶつかったと思ったのに、その唇はとても柔らかかった。


資料室でした以来の……キス。


「……何回目かな」


唇がそっと離れたあと、思わずつぶやく。


「もう覚えてないね」


「…ほんと」


ふたりで目を合わせて笑い合う。


「とりあえず今日だけで、今までの回数は超すかもね」


さらりとそんなことを言った。


「え、それって…、ま、待って、世良くん」


そんなことしたら、わたし、ドキドキしすぎて心臓がもたなくなる…!


「知らないって言ったよね?」


「う…。よ、呼ぶ!名前で呼ぶから…っ」


「もう遅いよ、胡春」


「た、匠く──んんっ」


彼は言葉どおり、たくさんのキスをわたしに降らせた。


わたしは受け止めるので精一杯だったけど……幸せすぎて、泣いちゃいそうだった。


恋人になった世良くんと、これからたくさんの思い出を作っていきたいな。


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