キスからはじまる


人間は、無理やり忘れようと思えば思うほど頭に浮かんでくる生き物で。


いつもよりはやく登校してしまったわたし。


ほどなくして教室にやってきた世良くんの姿に、わたしはひとり慌てふためいていた。

それはひとまず脳内にとどめることはできたと思う。


世良くんとわたしの席が遠くてよかった。


これでもし隣とかだったら、わたし、どんな顔して世良くんと接したらいいのかわからないよ。


世良くんはわたしのことなんて意識していないと思うけど、昨日の出来事をもうすっかり忘れてしまっていることは、ないと思う。


わたしは恥ずかしいから出来れば世良くんと話したくないけれど、昨日のこと、謝らなきゃ。


だって、あの一部始終はすべてわたしのせいだから。


わたしが階段を飛び越えなかったら、世良くんとあんなふうにぶつかることはなかった。


後ろに倒れさせて背中が痛かっただろうし、上にのっちゃって重かっただろうし、…キスしてしまって不快だっただろうし。


わるいことしかしてないよ。

昨日は“ごめん”も言わずに立ち去ってしまった。


今日絶対、謝らなきゃ。


わたしは机を見つめながらそう決心した。

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